遍路最終日、結願の報告のためお大師様が入定している高野山へ向かう。5時半に和歌山駅を出発して電車で高野山へ。電車すごい、何もしないでも勝手に進んでいく。。。この距離歩くと一体何日かかるのだろう?
JR橋本駅から、南海高野線に乗り換えさらに極楽橋駅へ、さらにケーブルカーへ乗り換え高野山駅で下車する。本当は極楽橋駅から歩いてもいいかなと少し思ったがもう、足がアホになっていてとにかく歩く量を最小限にしたかった。
その後、バスに乗り換え終点から少し歩くと大門が迎えてくれる。標高867m天空の宗教都市、高野山へ到着だ。
街並みは景観が保たれていて昔ながらの街並み、高い建物などは一切なかった。ファミリーマートがあったくらい。普段着姿で坊主が普通に歩いている、あとは観光客ばかり。
まずは、高野山真言宗の総本山、金剛峯寺へ行く。実はここでも地味に納札箱が用意されていた。念のため持って来て良かった、納札を入れこれまた一人で般若心経を唱える。以前は他人の目が気になっていたが、もう何も気にならなくなった。お寺に来てお経を読まないで何をするのだ。
その後、檀上伽藍へ移動する。ここは高野山真言宗の道場だった場所らしい。ここでは四国遍路の一味と思われる団体様を発見する。遠い和歌山の地でもお遍路さんに出会えてちょっとうれしい。残念ながら個人の歩き遍路らしき人には出会わなかった。
そして2kmほど歩くと奥之院へ到着する。この橋を渡ってから少しずつ雰囲気が変わってくる。
両サイドに数万を超えるお墓がずらりと並ぶ、そして間を縫うように杉の木が立ち並びなんとも言えない聖地の空気を醸し出していた。中には有名な戦国武将のお墓が。。。
その他に豊臣秀吉、石田光成、武田信玄、上杉謙信、明智光秀、毛利家、島津家などそうそうたる面々のお墓がずらりと並んでいた。空海への信仰心の表れなのか、この地で墓を持つことのステータスなのか、それは分からないがいづれにしても当時は相当の影響力を持っていたのだろう。
そしてお大師様が入定している弘法大師御廟(ごびょう)が近づいてくる。この橋以降はスマホ、撮影は禁止になる。御廟には入れないが近くにある燈籠堂の地下から除き込む程度の事はできるらしい。
燈籠堂の中は祈祷の最中だろうか、大勢の僧侶がお経を唱えていて参拝者が静かに見守っていた。燈籠堂の裏手に地下への階段が続いており、薄暗い階段を降りていく。
地下室を進むとお大師様に一番近いとされている場所に小さな祭壇があった。一人静かにお経を唱える、これが最後の般若心経だ。
読経を終え顔を上げると祭壇の奥にうっすらとお大師様の御姿が映っていた。。。
ーー
これで結願の報告も無事に完了、納経所にて御朱印をいただく。日曜だけあって御朱印をもらう人が列をなしている。納経所の人も忙しいのだろう、事務的に処理をして行く。
自分の順番になり納経帳を出すと、四国遍路の報告と分かったのだろう『長い間お疲れ様。』と声を掛けてくれた。後ろにも順番待ちの人がいたのでそれ以上のやり取りはなかったが、なんだか嬉しくなる。
これで全予定完了である。
その後、少し他の寺をブラブラして高野山を後にする。最後まで顔見知りに会うことは無かった。特急に乗り大阪のなんば駅まで出る。さらに新大阪から新幹線で東京へ帰ることになる。久しぶりの大都会は何だか忙しなく感じた。
帰りの新幹線の中で、納経帳をめくりながら色々なことを思い出す。頭に浮かぶのは出会った人のことだ。
旅をしながら色々なお遍路さんに出会った。
荷物20kgさんは今どうしているのだろう
太陽パネルさんは無事結願できたかな
外資系おじ様はどんな老後を過ごすのだろう
イケメン遍路くん、結願まで頑張ってくれ
ソリは宿を確保できているのだろうか
療養中の女性も元気になってほしいなぁ
伊尾木洞のあの子は職場に馴染めたろうか
僧侶さんの本山もいつか訪問しよう
沖縄兄ちゃんの再就職うまくいけばいいな
逆打ちのベテラン爺さんに結願報告しよう
スナフキンおじさんは今日も四国のどこかを歩いているのかな
四国の人にも本当にお世話になった。
植村旅館、磯屋旅館の女将さん
びざん、ときわ旅館のご主人
パンダ屋、民宿みやこ、カメリアのご夫婦
そして地元でご接待をしてくれた多くの方々、、、
遍路をしなければ出会うことのなかった人達、彼らの人生から見れば自分と交わした会話の時間などほんの一瞬に過ぎない。でもその一瞬の時間でも彼らの人生に触れることができたこと、そして彼らが今もどこかで過ごしていると思うと元気になれる。
東京駅につく、脱いでいた靴を履きなおす。
思えばこの靴にもだいぶ助けられた。何も言わず1200kmの道に付き合ってくれて、最後まで壊れることは無かった。マメは散々できたけど結局靴擦れは殆どなかった。影のMVPはこいつだな。
そして見慣れた景色が、やっぱり何だかんだ安心する。
やっと、やっとこさ地元へ帰ってきた。ここを出発したこともずいぶん昔の事のように思える。それぐらい濃密な時間を過ごした。
家に帰ると部屋の中は当時のまま時間が止まっているかのようだった。
ペットボトルに残った飲みかけのお茶、散らかった服、書きっぱなしの退職関係の書類を見て『どれだけ焦って出発したんだろう』と少し笑えた。
空海の足跡を巡る旅はこれで終了、明日からはまた矢印の無い道を少しづつ歩いて行くことになる。
空気を入れ替えようと、西側の窓開け空を見上げる。
しばしの充電期間を経て自分の人生へと帰ってきた。
これから待ち構えている現実もなんとなく察しはつく。
たぶん今の清々しい気持ちもそんなに長くは続かないだろう。
何カ月かすればきっとまたつらい日常にウンザリすることになるのかもしれない。
でもその時はこうやって西の空を見上げてみよう。
あの空の向こうには四国があって今日も誰かが遍路をしている。
そう思えるだけで十分だ。
ぎゃーていぎゃーてい はーらーぎゃーてい はらそうぎゃーてい
さて、これからどうしよう?
とりあえずゆっくり寝てから部屋の片付けでもしようかな。
おわり