遍路43日目、旅館の御主人に挨拶をし、7時頃に宿出る。ついに最期の札所大窪寺をめざす。梅雨入りしたはずなのにお大師様の思し召しか、天気は文句なしの晴れである。
そういえば前日に納経所の人からお遍路交流サロンなる場所が大窪寺に行く途中にあるので寄るといいと言われた。何でも歩き遍路の人には認定証がもらえるらしい。
4kmほど歩くと建物が見えてきた。中に入ると沖縄兄ちゃん達がすでにいて認定証をもらっていた。彼らとも長い付き合いだ、長い間共に歩いてきた同志とこの日を迎えられ嬉しく思う。
このサロンにはお遍路に関する展示品や四国のお寺が配置されたジオラマなどちょっとした博物館になっていた。申請用紙に名前と住所を記入するとすぐに認定証を発行してもらった。
どうやら自分は今年度の2326番目になるらしい。ちなみにお遍路の年度は7月から翌年の6月までで集計するらしい。つまり年間で2500人程度がこの旅を結願しているわけである。その後このサロンを運営しているおじさんと色々話をした。世界遺産登録に向けた話や遍路の問題点や今後の課題などわりと真面目に意見交換をしてしまった。
最後にここ数日で結願した人(サロンを訪れた人)の名前を見せてもらった。荷物20kgさん、カメリアの佐賀姉さんなど馴染みの人達の名前があり、自分のことのように嬉しい。太陽パネルさんや、僧侶さん、外資系おじ様、チリ人のソリはいなかった。後から来るのだろうか?
すっかり長居してしまった遍路サロンを出て88番への最期の難関、女体山へアタックを開始する。
残り少ない遍路道を味わいながらゆっくり、噛みしめるように歩を進める。
・・・
思えばこの遍路で何回山に登ったのだろう
何回道を間違えたのだろう
何回マメを潰したのだろう
何回雨に降られただろう
何回過去にイライラしたのだろう
何回未来を不安に思ったのだろう
・・・
道がどんどん険しくなる。
もはや道ではなくただのロッククライミングになってきている。ザックの重さに引っ張られて後ろに滑落しないように一歩、一歩踏みしめて登り続ける。
結局、こうして遍路を終えようとしている今でも過去への拘りも未来への不安も消えない。1200km歩いても正解なんてわからない。
それでも山頂に着く頃には初夏の心地よい風と結願を控えた達成感がそんなネガティブな感情を塗りつぶしていく。
悟りは開けないし、煩悩も捨て去ることはできない。仏様にいくら祈っても現実は変わらない。できることと言えば今目の前のことに集中するだけだ。その積み重ねしかないのだろう。
その後林道を少し歩く。
そして6月1日 11時47分…
八十八番札所、大窪寺に到着する。
蝉が鳴き始めていた。
境内には人はまばらで、自分の読経だけが響き渡る。後ろで様子を見ていた同じく先程結願したばかりの70歳の通し打ちのおじいさんが優しい顔でおめでとうと言ってくれた。
本当に静かな結願だ。
その後しばらくすると沖縄兄ちゃん達など見知ったメンバーが続々と到着し、にわかに賑やかになる。清々しい顔をみんなしている。
結願の喜びと遍路が終わるさみしさを背中で語っているらしい。
その後、その場にいたメンバーでささやかな祝杯を上げた。沖縄兄ちゃん曰く、『この遍路のことを思い出せば、中位の事は乗り越えられる!!』とのこと。確かにそんなもんだとみんな苦笑いした。
そして全員と握手をしたのち各々別れていった。バスで帰る人、野宿場所を探しに行く人。自分は一番の霊山寺にお礼参りをするのでまた歩き出す、40kmの道程だ。二天門から一礼し外に出る。
また一人に戻り、徳島に向かって歩き出す。もっとしんみりした感じになるかと思ったらもう明日でこのウォーキング地獄から解放される喜びの方が強く、妙にテンションが高かった。誰もいない道でノリノリでドラゴンボールの摩訶不思議アドベンチャーを熱唱しながら歩く。
徳島に入りしばらく歩くと10番、切幡寺の近くまで来ていた。ずいぶん昔のことのように思える、あの時はまだ観光気分が抜けてなかったな。
今日は霊山寺20km手前の宿に宿泊する。ご主人から結願の祝いで日本酒の接待を頂いた。久しぶりの日本酒は結構堪えた。
明日で四国の旅も終わりやね。